大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成9年(く)59号 決定

少年 C・K(昭和53.7.18生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、付添人弁護士○○作成の抗告申立書記載のとおりであり、その要旨は、(一)本件非行事実は、平成8年10月1日に保護観察に付された事件(以下「前事件」という。)において、少年の要保護性にかかわる事実としてすでに審判を経ているものであって、これを再度審判に付したのは少年法46条に違反するものであるから、原決定には、決定に影響を及ぼす法令の違反がある。(二)少年は、暴走族「○○」の単なる構成員であったのに、原決定は、少年を「○○の二番目の実力者」、「Aが少年院に収容された後の実質的リーダー」であると認定した点で、また、少年は、前事件で保護観察に付された後は暴走行為をしていなかったのに、原決定は、平成8年10月ころ、少年の主導で○○からの引退暴走が行われた疑いがあるとした点で、原決定には、重大な事実の誤認がある、(三)少年は、平成8年11月以降、型枠大工として真面目に勤務し、保護観察所の指導にも従い、生活態度も改善されてきていたのであるから、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というものである。

そこで、所論にかんがみ、記録を調査して検討し、次のとおり判断する。

(一)  少年法46条にいう「審判を経た事件」とは、保護処分の対象となった決定書記載の犯罪事実(以下「前件事実」をいう。)のみを指し、右犯罪事実以外の事実は包含されないものと解すべきところ、前件事実は、平成8年2月7日、枚方市内において、放置されていた第一種原動機付自転車1台を横領した、という占有離脱物横領であって本件非行事実と異なることが明らかであるから、本件非行事実を審判に付したことは少年法46条に何ら違反せず、原決定に、所論のような法令の違反はない。

(二)  暴走族「○○」には、○△と○□とがあり、少年は○□(7代目)に所属し、その総長はAであるが、同人は、平成8年3月31日の暴走行為(本件非行事実のうち、司法警察員作成の平成8年9月6日付少年事件送致書記載の犯罪事実)の件で少年院送致となり、その後は○□の総長は不在の状態であったところ、少年の○□における地位ないし構成員間の力関係等に関し、Aは、平成8年3月31日の暴走行為について、自分が総長代行のC・Kほか10名くらいの構成員とともに参加した旨(平成8年7月31日付検察官調書謄本)、○□の構成員であるBは、平成8年3月31日の暴走行為の件で構成員が警察の取調べを受けるなどしたため、それまで約20名いた構成員が5名になり、総長のAは右の件で少年院に入り、今は○□ではC・KとCが力を持っており、C・Kの方が腕力があって、一番力を持っている旨(平成9年1月28日付警察官調書)、今回の△△会の引退暴走(本件非行事実のうち、司法警察員作成の平成9年2月3日付関係書類追送書記載の犯罪事実)の当時は、C・Kが総長代理として○□のまとめ役であった旨(同年2月18日付警察官調書)、同Dは、Aの抜けた後は総長代行としてC・Kが○□を仕切っており、平成8年10月中旬ころに引退暴走をするまでC・Kがリーダーとして○□を引っ張っていた旨(平成9年1月28日付警察官調書)、また、総長のAが少年院に入ってからは、ナンバーツーのC・Kが○□をまとめるようになり、C・Kが引っ張って、平成8年10月中旬ころまで暴走し、それ以後暴走しなくなったのは△△、会の引退暴走に参加した者が警察に呼ばれたり、逮捕されたりなどしたため、C・Kの指示で「やばいからもう走らんとこ」ということになったからである旨(平成9年1月29日付警察官調書)、同Eは、Aがいなくなってから○□を仕切っていたのはC・Kで、今回△△会の引退暴走のときもC・Kがリーダー的な役割をしていた旨(同年2月6日付警察官調書)、同Fは、○□は、○△と一緒になって、平成8年10月か11月ころに引退暴走をし、これを計画したのは総長代行のC・Kである旨(平成9年2月7日付警察官調書)、同Cは、○□の総長はA、ナンバーツーはC・Kで、平成8年7月に総長のAが少年院に入ってからは、C・Kが実質的な総長となって○□を仕切っていた旨(平成9年2月18日付警察官調書)、○△の総長であるGは、○□で知っているのはAとC・Kだけである旨(同年1月16日付警察官調書)、また、○□では、今はC・Kが一番力を持っており、C・Kが総長のような役目をして○□を引っ張っている旨(同年2月1日付警察官調書)、○△の構成員であるHは、○□の総長はAであるが、少年院に入っているので、今のリーダーはC・Kである旨(同年1月14日付警察官調書)、また、○□の中で今一番力があるのはC・Kであり、C・Kが○□をまとめている旨(同年2月1日付警察官調書)をそれぞれ述べていることからすれば、少年は、Aがいたときは○□でAに次いで実力があり、同人が少年院に収容された後は○□の実質的なリーダーとしての役割を果たしていたものと認められる。

次に、平成8年10月ころの○□7代目のいわゆる引退暴走に関し、前記Bは、○□7代目の引退暴走は、平成8年10月に自分も参加して行われ、その後3週間くらいして、7代目のC・Kから「次の代はお前が引っ張ってくれよ」と言われた旨(平成9年2月18日付警察官調書)、前記Cは、○□7代目は、平成8年10月ころにC・Kが計画して引退暴走をした旨(平成9年2月18日付警察官調書〔5枚綴りのもの〕)をそれぞれ述べており、これらと前記D、Fの各供述とによれば、平成8年10月ころ、その規模や態様等は不明であるが、○□7代目のいわゆる引退暴走が少年の主導のもとに行われたことが認められる。

右各認定に反する少年の供述は、にわかに信用できないのであって、原決定に所論のような事実の誤認はない。

(三)  少年は、中学3年のとき、自転車盗や単車盗でいずれも家庭裁判所で保護的措置(審判不開始)を受け、平成6年4月に公立高校に進学したが、同年10月ころから登校しなくなり、同年末ころから暴走族「○○」の暴走行為に追従して原動機付自転車で走行するようになり、平成7年4月に公立高校を退学して通信制の高校に入り、同年10月ころには免許がないのに自動二輪車を購入して、同年末ころから○□の構成員となって無免許で自動二輪車での暴走行為を繰り返して本件各非行に至ったものであって、平成8年10月1日に前件事実で保護観察に付された後も、暴走族仲間との交遊を継続し、○□の実質的なリーダーとして振る舞い、自ら主導して○□7代目のいわゆる引退暴走を実行するなどしており、基本的な生活態度に目立った改善は見られず、保護司による指導が効果を上げているとはいえないこと、両親においても少年の行動を十分把握しておらず、少年と両親との折合いも必ずしも良いといえないこと、交通非行の問題性について軽く考えており真剣に反省しているとは見えないことなどにかんがみると、通信制高校に在籍して型枠大工として稼働し、平成8年11月以降、仕事は一応真面目にしていたと窺えることや今回鑑別所に収容されて反省の機会を与えられたことなどを考慮しても、この際は、少年院での教育によって交通非行についての内省を深めさせ、交通法規を守る心構えと健全な生活習慣を身につけさせることが必要であって、少年の性格や勤労意欲等も考慮して、特修短期の処遇意見を付して少年を中等少年院に送致した原決定の処分が不当であるとはいえない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により、本件抗告を棄却することとし、注文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 青木暢茂 裁判官 梶田英雄 佐の哲生)

〔参考1〕抗告申立書

抗告申立書

少年C・K

上記少年に対する道路交通法違反保護事件につき、下記の通り抗告を申し立てる。

1997年3月6日

上記少年付添人 弁護士○○

大阪高等裁判所御中

抗告の趣旨

原決定を取り消し、本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。

抗告の理由

第一決定に影響を及ぼす法令の違反

一 原決定は、非行事実として司法警察員作成の平成8年9月6日付及び同9年2月3日付少年事件送致書記載の各犯罪事実を引用した上、「本件は平成8年10月1日に一般短期保護観察に付せられた事件の余罪であるが、その処分を行うにあたっては、少年が同年3月31日に暴走行為を行ったことも一応考慮はされているが、その具体的内容について詳細検討しているものではなく、同年9月15日の暴走及び3月31日からも暴走を繰り返していた事実は全く考慮に入れられていない」と処遇の理由中で述べて、中等少年院送致を決定した。

二 3月31日暴走行為を詳細に検討しなかったという理由は許されない。

原決定は、平成8年10月1日付、少年を一般短期保護観察に付するとの決定(以下前処分という)にあたっては、3月31日暴走行為の具体的内容の詳細検討がないという。

では、保護処分を行うにあたって必要とされる、具体的内容の詳細検討とは何か。原決定は、本件非行事実について、前処分と違う、どのような具体的内容の詳細検討を行ったか。原決定が、本件非行事実について詳細検討しているのは、少年の、暴走行為との関わり、暴走族における位置、暴走族との一体化の程度である。「3月31日暴走行為の具体的内容の詳細検討」と、原決定はいうが、当該一回の暴走行為での少年の行為態様について、詳細に検討しているわけではない。そのようないわば些末な事実よりは、原決定が実際に検討している事実の方が、要保護性判断のためにははるかに重要なのである。

しかし、これら原決定が「具体的内容の詳細検討」した事実は、概ね、すでに前処分の当時に明らかとなっていた。

三 少年を○○の実質的リーダーと原決定が認定したことの誤りは後の項で詳述するが、少年の○○における地位については、すでに前処分当時に関係者の供述に詳しく記載されている。

少年の○○における地位を最も重く記載するのは、Aの平成8年7月27日付警察官調書(以下、8・7・27Aのように略す)である。ここには、「総長代行役のC・K」という記載があり、加えて、「C・Kのように、他チームから○○の総長や総長代行と言われている者もいる。他チームとの連絡係として、暴走度ことの集合や合流場所やコースの打ち合わせをしっかりやってくれる。○□以外の他所のチームはC・Kに一切合切の連絡をとることを任している。」などという記載がある。これは、事実に照らして必ずしも正しいとは言えないが、前処分の当時に、このような調書が存しているのは疑いない。また、8・7・27A「週末ごとにC・K、Iから走るか走らないかの連絡が入る」、8・7・17少年「中2頃からギャラリーを始め、中卒後、1年位してから暴走行為をやりだした」、8・7・18少年「土曜の夜はAに連絡する」等の記載があり、少年が多数回にわたって、週末に暴走行為を繰り返していたことも明らかになっている。

四 これらは、原決定が言うところの、処分に付するために詳細検討されるべき事実の記載である。原決定は、これら記載を要保護性の判断の資料として、処分を決定しているはずなのである。少年法46条によれば、罪を犯した少年に対して第24条1項の保護処分がなされたときは、「審判を経た事件」について、刑事追訴をし、又は家庭裁判所の審判に付することはできない。この「審判を経た事件」を決定書記載の非行事実のみに及ぶと狭く解すると、本件では少年法46条の適用を論じる余地はない。

しかし、「非行事実プラス要保護性が審判の対象であることは現在の通説である。この通説に従い、要保護性も審判の対象であるとするならば、少年を保護処分に付するにあたって重要なファクターとして斟酌された要保護性に関する事実についても、少年法46条の一事不再理効を認める余地が出てくる」(早川義郎「虞犯事実と犯罪事実の関係について」家裁月報26・1・22)。

五 少年については、前処分の当時、上記の通りの事実が、判明していた。そして、これら事実が、少年の要保護性にかかわる最重要の事実として斟酌されて、前処分が決定されたのは、原決定と同様のはずである。にもかかわらず具体的内容の詳細検討がないからと言う理由で、新たな処分を付することは許されない。原決定は、具体的内容の詳細検討がなされて審判を経た事件について新たに審判に付したのである。以上のとおり、前処分において詳細検討がないはずはない。もし仮に詳細検討がなかったのであれば、少年の要保護性判断のために詳細検討すべきであり、現にできたのにこれをしなかったということに他ならない。これは前処分における裁判所の誤りであって、その誤りによる不利益(すなわち少年を後日の処分によって再度詳細検討して、新たに処分に付すること)を少年に科すべきではない。

六 9月15日暴走行為及び3月31日からも暴走を繰り返していた事実が考慮に入れられていない、という理由も許されない。

原決定は、「○○からの引退暴走が少年主導で、同年10月に行われた疑いもある」と処遇の理由中に挙げている。

この事実は、送致されていないだけでなく、一部関係者の供述中に漠然と触れられ、少年も付添人も反論の機会を全く与えられていない事実である。原決定はこのような事実(これこそ詳細検討がない)を挙げながら、「(前処分は)3月31日暴走行為は具体的内容について詳細検討していない」、あるいは、「9月15日暴走行為及び3月31日からも暴走を繰り返していた事実が考慮に入れられていない」として、新たな保護処分に付するのである。

では原決定裁判所は、後日新たに10月頃の○○からの引退暴走行為が送致された場合に、どのような立場をとるのか。

具体的内容の詳細検討がなかったからという理由で、再び、新たな処分に付するのか。しかし、そのような立場を許すなら、一回の暴走行為により、保護処分に付された少年に対して、その保護処分以前に行った暴走行為が一件一件明らかになり送致される度に、新たな保護処分に付することができるということになる。仮に、少年法46条の「審判を経た事件」を狭く解する立場に立っても、このような処分の蒸し返し、繰り返しは、非行少年の性格の矯正に役立つどころかかえって相反するとしか言えないはずである。このような場合はやはり少年法46条に違反すると解するべきである。

原決定裁判所も、10月頃の○○からの暴走行為については、新たな処分を許さないのか。もしそうであれば、今回の原決定もまた、許されないものとなるはずである。

七 結局、具体的暴走行為の特定をもって新たな事件と解するべきではない。前回保護処分で斟酌されたはずの暴走行為の全部または一部について、その暴走行為の日時・場所・態様が特定されたからといって、これにより新たな審判に付することができると考えることは、少年法46条に違反すると考えるべきである。いずれにせよ、原決定には決定に影響を及ぼすべき少年法46条の違反があり許されない。

第二重大な事実の誤認

〈編略〉

第三処分の著しい不当

すでに述べたが、少年は、昨夜10月1日に短期保護観察の処分に付された。以後は暴走行為をやめており、同年11月に型枠大工になってからは、保護観察の指導にも従っており、生活観は比較的健全であり………家庭環境は一応安定していて、そこからの離反も認められないのは、原決定も認めるとおりである。少年は、昨年10月1日以後、それまでの生活を見直し、徐々に健全な生活に立ち戻りつつあった。勿論、一気に十全に問題のない生活に服したとは言えないかもしれないが、少年に見るべき努力が存していたのは間違いない。逮捕時の警察官に対する少年の対応にも、問題が見られないではないが、これも今後の生活の中で十分に改善が可能なはずであった。逮捕以後の反省の深化については、別添の少年の手紙のとおりである。

少年は現時点では良い方向に向かって歩を進めていた。その少年に対して、過去の(すでに少年が関係を断ち切った、あるいは断ち切りつつあった)暴走行為を理由に、施設収容を求める理由はない、また、少年に対する保護処分は、一般予防の観点が重視される成人の刑事処罰とは異なるのであるから、共犯者たるAとの均衡を理由に施設収容とするべきではないし、仮に共犯者との均衡を言うのであれば、CやDとの均衡をこそ言われるべきであろう。少年に施設収容を求めなければならない理由は全くない。原決定は、少年に対して、今までの努力が無駄であったと宣告するに等しい。このような処分が、少年に良い影響をもたらすのか、悪い影響をもたらすのか。言うまでもないことであろう。現時点での少年に対する少年院送致は百害あって一利なしと言うべきである。

以上

〔参考2〕原審(大阪家 平8(少)503903、9(少)500375号 平9.2.28決定)〈省略〉

〔参考3〕処遇勧告書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例